shino執筆:HUB Tokyo コファウンダー/マネジメントチーム、槌屋詩野

自分の独創性をどう表現するか

最近分かってきたことがある。

起業家とは「自分の存在意義を考え、その能力を最大に活用するために、どんな表現をするかを考え続けている人」だ、ということだ。それが「独創」であり、起業家は独創することで自分の価値を何度も再確認しながら前に進む、という、タフな人生を選んだ人たちだ。だが、その人生を選ぶ理由は、その人にはそれ以外の人生で生きることを考えられないからだが。

チーム360という起業家プログラムがHUB Tokyoで始まって、3週目。実はその間にメンターチームとの会話の中で気づいてきたのは、みな「自分の独創性」をどう表現するか考えている人たちばかりだった、ということだ。私の中で、「独創」について考えるのが最近のテーマだ。

お金を受け取る時にも独創性が要求される

独創には、色々な方向性がある。起業家の多くは、お金の入りも多いけれど、出も多い。多くの起業家は、お金を生み出すことを多々行うが、一方で、次の事業を生んで行く為にお金を投げ出すことも多々行っている。そうすると、お金の出の部分での「独創」はとても大事な自己表現のツールの一つになる。

「お金を出す」という部分の「独創」を真剣に考える人は増えているはずなのに、「お金の出し方」のメソッドは限られた範囲にとどまっている。理由は、法制度が日本ではまだ柔軟ではないこと、そして、金融に関する選択肢が市場に少ないこと。自分の考えるようなお金の出し方に一致するような選択肢を提供してくれる第三者はまだ少ないはずだ。

(※「お金の使い方」に関して考え直そうという機運は、結構世の中にあるのだが、ここでは「出し方」である。それはある事業への投資からはじまり、寄付まで、様々な範囲のものを含んでいるが、「とある事業やチャレンジへの資金を提供する」ことである。)

仕組みから抜け穴を見つける作業は楽しい

しかし、その「限定された制約の中で、新しいアイデアを生み出す」のが得意な人たちがいる。それは、弁護士や会計士、税理士のような人たちで、独創的なアイデアを生み出してくれている。私たちのHUBへの投資は、HUBという「社会的ミッションのある事業」であり、グローバル全体との契約の中での制約条件もある投資だったため、通常のスタートアップとは全く異なる投資の仕方だったが、それを可能にした時に一番活躍したのはプロボノで関わってくれていた友人の弁護士と、後に、弊社で財務を担当し現在Co-Founderとなったポチエ真悟だった。その見事な発想の組み合わせは素晴らしかったし、おかげで、私たちはその後も投資家と建設的に話を続けることが出来ている。この出会いが無ければ成立しなかった。

だが、一方で、私たちは今回の自分たちの資金調達を通して、ここまで「お金の出し方」には制約があるのか、と驚かざるを得なかった。イギリスでのスタートアップ業界の経験が長いポチエ真悟は、スタートアップ分野での事例に精通していて、クリエイティブな資金調達方法を色々と思いついたし、私は他の先進国や途上国の社会的起業の資金調達などについてマニアックに知っていて、色々なビジョンを繰り出したが、弁護士とのやり取りの中で日本の法制度に「そのようなビジョンを表現するには」限界があることも理解した。投資家を守るためにある制度や、会社を守るためにある制度が、色々なところでオーバーラップし、実は障壁となっていたりする。ガチガチの張り巡らされた虚構のような鉄格子の中で、いかに自分達の事業とお金について独創性を発揮するか、RPGゲームのように考え続けた数ヶ月を送ったのを覚えている。

その、我々の資金調達が最終交渉段階に入るころ、私たちは「SOCAP」というHUBサンフランシスコが主催する投資家と起業家の集まるカンファレンスに行った。そこで、多くの法律家や会計士がクリエイティブな発想で、篤志家や起業家のお金を「独創的」に運用する世界観を見た。これは、一体、何なんだ!?なんか自由じゃないか!

アメリカはデラウェアに自由な法人制度があるようだが、カリフォルニア州ではそれを超えて、シリコンバレーの文化の影響も大きく、様々な組み合わせで、寄付から投資までの様々な「お金の出し方」が存在する。それらが、社会的投資からテック投資まで、スキームを変え、使う法律を変え、場所を変え、手を変え品を変え、実験されているのである。このカンファレンスは、そんな超マニアックな実験を、みんなで披露し合い、情報を交換しあう。契約書のテンプレートまで、みなで交換しあって、これだとどうなる、などディスカッションするのである。

自分たちの独創性は会社形態でも表現できる

帰国後、ポチエ真悟と私は、「絶対に株式会社として、株式発行で投資を受ける」ことに決定した。これは私たちの起業家としての「独創」のステートメントである。自分たちの考える、社会へのステートメントである。我々は東京にもっとたくさんの前例を創らなければならない。契約書のテンプレートを皆で見せ合って、次に起こる投資についてオープンディスカッションできるような世界観を、東京に創りたい。であれば、お金の集め方から考えよう。寄付でなく、投資を受け取り、事業として成功させるのは当然のこと。まず、ここから始めよう、と。

私は個人的な繋がりで投資銀行やベンチャーキャピタルにいる人など、東京にいる「資金調達に詳しい人たち」に、一応キャッシュフローや事業を見せたが、誰も「コワーキングスペースとインキュベーションの間」のようなこの事業は規模的に投資対象にならないと思ったようだ。「寄付にしたら?」「行政からもらったら?」「スケールしなけりゃ意味ないし」「VCが所有する施設じゃないし」という声をたくさん聞いた。多くの日本人の「お金の専門家」は、こんなバカみたいな事業に金出す馬鹿がいるなら見てみたい、とでも言わんばかりで、白々しかった。そうじゃないんだよな!と腑に落ちなかった。なぜなら、SOCAPに行った時、HUB Tokyoを創ると言ったら他の国には「投資したがる人」がたくさんいたからだ。見ている未来が違うのだ。東京にもいるはずだ。

投資はお金だけでなく、もっと広い効用がある

我々の事業はイニシャルコストがかかる事業であり(究極は不動産ですから)他のHUBは寄付や行政からの資金でまかなうこともしているのだが、そこについては私たちHUB Tokyoは「Stay Fool」の選択肢をとった。(それが良かったのかどうかは分からないが、結果、面白くなったのは事実だ。)長期的な観点をもった投資を、ローカルの、東京の、投資家に一生懸命説明し、理解してもらい、そして、自分たちの事業のオーナーシップを失わずに投資をしてもらった。(私たちの投資家は、東京R不動産ならびに個人投資家たちだが、私たちマネジメントチームは事業のオーナーシップは失わずにいる。)私たちが得たのは、単なる「投資/融資」の関係ではなく、半年以上に及ぶ投資家との対話、そこから生まれる面白いアイデア、繋がり、コミット、お願い、成長、等のまぜこぜの関係性だ。その分、事業はもっともっと面白くなった。

日本の法制度はHackできる。専門家による「エンジニアリング」があれば、できる。だが、ビジョンはどう描くか?

お金は、その事業に入ってくる「摂取する要素」である。食べ物が細胞一つ一つに影響するように、お金に付随する意味は、事業の一つ一つに影響する。事業のビジョンと重なり、お金を摂取するビジョンを持たないといけない。これは起業家が資金調達する際の「独創」だ。

日本ではお金を出す側の工夫が足りない

一方、我々が東京でもっと見たいと思っているのは、お金を出す側の人の独創だ。

お金を出す側にいる人たちが、「独創」をあきらめている気すら感じる。お金をたくさん持っている人は、誰かに預けて誰かが運用してくれればそれでいいのかもしれないが、そこにその人の「独創」をどう発揮するのだろう。現在の日本において、ベンチャーキャピタルにいるファンドマネージャーの方々が、お金の出し方について、「独創」を表現するような大きなビジョンを描いているように見えない。(当然そうなるべきだと思う。他人のお金なので、失敗してはいけないのだから。)

Jeff SkollというE-bayの創設者は、自分の資金を運用する上で、「従来型の資金運用じゃ、なんか違うんだよな!話つうじないんだよな!」と考え、新しいファンドマネージャーを募集した。そして、全く違う方針で動くファンドを、自分のポートフォリオに追加した。それは社会的インパクトとスケールを重視する投資だ。彼の信念そのものを表している。彼のその行為は、他の投資家たちを刺激し、みな「自分のお金の出し方の独創性」について考え始めた。

そこから派生し、Skoll Foundationという財団が生まれ、Skoll Forumというカンファレンスもイギリスで行われるようになった。いまや、ロンドンと米国西海岸の実業家や投資家達が、毎年2回サンフランシスコかオックスフォードで集うことが続いており、グローバルなファミリーを形成している。(私はこれを勝手に「ソーシャル・マフィア」と呼んでる)彼らが試したいのは、「独創」のあるお金の出し方であり、それを世界中の色々なところで、独創的な起業家にお金を出すことで、実験している。そして、すごくマニアックに見て、面白い「お金の出し方」をした人たちに、「Bravo!!!」と言って、拍手喝采して、皆で狂喜乱舞する。不思議に見えるかもしれないが、これはこれで面白い世界だ。

自分の存在意義を何で表現するか

日本人には変な誤解があって、「金持ちじゃないと投資家になれない」という印象を持ってる。「俺/私は投資家なんかじゃない」と思っている人が多いのだが、少しでも誰かの事業に金銭的リスクも一緒に背負って入り込んだなら、もう「投資家」だと考えた方がいいんじゃないだろうか。その行為自体が、既に自己表現の一つであり、その人自身の人生の一部にその事業が入り込んでいるわけだから。そして、その行為自体が、自分の存在意義を世界に示すためのツールの一つである、と思ったら、どう行動が変わるだろうか。

私たちは、そんなことを熱狂的に話せる人たちと対話を続けたい。次のHUBのメンバーたちから生まれてくるプロジェクトの資金調達を、もっともエキサイティングな資金調達にしていきたいからだ。もし、あなたが興味があったら、私たちまでコンタクトを

shino【執筆者プロフィール】

株式会社Hub Tokyo 代表取締役 槌屋詩野

国際NGO勤務、シンクタンクでのイノベーションリサーチを経て、起業。世界中のチェンジメイカーとなる起業家達が接続するコラボレーションネットワークとしてのHUBに、東京から参画し、HUBの経営、日本でのブランディングを見る。現在、HUB内にて「番頭」として活動し、HUBに集まるメンバーの事業成長、コラボレーションに様々な形で貢献中。